☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ 初日舞台挨拶 レポート 3.28 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆





関野
 今日はありがとうございました。
 私は30年くらいアフリカで誕生した人類の足跡を逆ルートでたどる旅をしてきました。そのあと日本列島に人類が来た道をたどりました。日本列島に人類はどうやって来たのか?実はいろんなルートがあるんです。そのなかで私がたどったのは主流なルートですね。シベリア、サハリンを通る北方ルート、中国南部から朝鮮半島へ抜ける南方ルート、それと海沿いのインドシナの方から来たルート。
 でも海のルートは、研究者の中でも反対意見が多いルートです。遺伝子的にもそうだけど、なにより危険だからと。短期間なら危険かもしれないけど、長期間、何世代にもわたってなら危険ではない。ですからこのルートを4年間でたどりました。

 今回、いつもと違うことがあります。それは若者2人を連れて行ったことです。それ以前は連れて行かなかったのですが。…旅はひとりでするものだし、なにより連れて行っても危険でケガとかしたら困るから。でも今回は一人じゃもったいないと思った。なぜかというと今回のルール、自然から素材を集めて鉄を作り、木を切り、舟を作って旅をするという効率の悪い作業の、東京では体験できない気づきがある。若者にそれを感じてほしかった。
 教員をしている武蔵野美術大学の学生から、撮影隊やクルーを募って1年で船をつくり、1年で航海をする予定だった。でも最初の方は日測12キロで歩いた方が早いくらい。次の年は南風が吹かなかったです。



前田 [クルー]
 映画の中でトラブルメーカーだった前田次郎です。一緒に旅をしたインドネシア人クルーは年長者を大事にする。だけど僕は年上に意見をしてしまい、口をきいてもらえなくなった。調子に乗っていたときもありました(笑)
 今振り返ってみると、新鮮によみがえってくる。また船に乗りたい。人生の大きな時間だった。あれを抜きに自分の人生は考えられない。



佐藤 [クルー]
 インドネシアのクルーといまだに関係が続いていて、昨年夏にもサンデック(伝統帆船)のレースを見学しに行った。船をつくっていた頃は電話もつながらず大変だったが、今では向こうの人もスマホを持っていて、Facebookでもつながっている。 きっと彼らとは一生の付き合いになると思います。



木下 [僕らのカヌーができるまで・監督]
 この映画には姉妹編の「ぼくらのカヌーができるまで」という作品があります。2隻を作るまでの物語にスポットを当てた映画です。私はその映画の”保存食をつくる"活動の記録を監督しました。その作品と比べると、この映画は少ない人数に焦点をあてたヒューマンドラマ。私たちはムサビ生とワイワイ、トライアンドエラーをしていた。そんな背景があったのも知ってほしいです。



  *** 持っていたシュロ縄を取り出す ***

 縄班もあって、シュロで50メートルくらいの縄をつくりました。



水本 [本作監督]
 そのシュロ縄は東京の小平で素材を集めて手作りした小平産です。それをインドネシアに送り、船で日本に帰ってきた。日本から持って行って帰ってきたのはコレだけ。僕はこの"縄をつくる”記録を監督して、その後航海に行って、この映画を監督しました。編集に3年かかって、全部で7年です。大変でした。



百野 [カメラマン]
 この長いプロジェクトとはそもそも何だったのだろうと考えて今も生活しています。
日本に帰ってきた後も経験として残り、物の見事に見方が変わりました。



岸 [音楽]
 僕は姉妹作の「ぼくらのカヌーができるまで」の頃から一緒に仕事をしています。実際舟に乗ったクルーではないので航海の様子を見ていなかったため、水本さんの情熱に合うように作曲した。

サンプルで見せてくれた映像が力になった。水本さんのセンスが好きです。



★★★ 質問コーナー ★★★



─クルーの森のタフガイが日本で働きたいと言っていたが、どうなったの?

関野
 探してみたけど技能がないと突然日本に来て仕事を見つけるのは難しかった。



─日本に来て日本のイメージは悪くなっていなかったか?

前田
 ならなかったですね。また来たがっています。でもしばらく東京に滞在すると海が恋しくなるみたいです。




─旅に女性は出てきませんが、女性に船の旅は無理ですか?

関野
 よく学生の女の子が「私が男だったら旅に行きたいのに」と自分に壁をつくってしまいます。僕はそれが嫌なんです。女の探検家だっているし。女のひとり旅は厄介だけど、2人なら。2人でも困難はあると思うけど。
 実は木下さんが「私も行きたい」と言ってきました。それで「船ではウンコやおしっこするところも見られるし、女を捨てなきゃいけないけどいいのか?」と言ったら「捨てる」と (笑)。


 ただ本人がよくても、こっちがねえ…


木下
 私はよかったけど、インドネシアのクルーに動揺が広がると聞いて、それじゃあだめだなと。


関野
 彼らはすごいシャイで、でも女性大好き。


前田
 女性に過度にやさしくする。航海どころじゃなくなるんですよね(笑)。





〔記事:菊地七瀬〕