☆☆☆☆☆☆☆☆☆ 関野吉晴 × 桃井和馬(フォトジャーナリスト・作家) ☆☆☆☆☆☆☆☆☆








関野
 今日のゲストはフォトジャーナリストで作家の桃井さんです。
 元々はペルーの反政府ゲリラに従軍取材したりしていました。
 一昨日取材から帰ってきたんだっけ?







桃井
 昨日帰ってきました。
 今回は、中近東の宗教事情の取材で、たとえば、イスラム国が占領している地域から3キロほどしか離れていない場所にも行く機会がありました。それらの地域で、宗教や社会のこと、何が日本と違うかを考えながら撮影を続けていました。

 メディアは戦闘など激しいところをピックアップしてるけど、実際行ってみると、そこでは人々の生活があり、喜びや悲しみがあり、まったく違うものが見えます。

 立ち寄ったレバノンはイスラム教徒が大多数なのですが、意外とイスラム教徒とキリスト教徒は仲が良かったりするんですよね。



関野
 シリアとかもそうだよね。



桃井
 飛行機でパキスタンの人がイスラムのお祈りをしていたのですが、飛行中では初めて見ました。ブランケットをひいてその上でやっていたんです。彼らにとってお祈りがごく当たり前にあるというのが印象的でした。

 映画の中でもそうですよね。



関野
 実はいろいろな祈りが詰まってるんです。
 あらゆる場面で神様とか精霊にお祈りをする。イスラムの一神教は厳しいかと思ったけど、木を切るときにはアラーにお祈りするし、その後、精霊に別の木に移ってもらうためにもお祈りをする。バナナの葉の上に供え物をして海の精霊に祈ったり。

航海中も船から足出しちゃいけないとか、立ち小便しちゃいけないとか。火のついた薪も精霊が火傷するから捨ててはいけない。漕ぐ時は精霊が痛がるから慎重に。そして朝と夜にメッカの方角へお祈りをする。

彼らは最初GPSやコンパスを使わないで航海するのは無理だと言ったけど、どうやら彼らはメッカの方角が知りたかったらしいです。



桃井
 彼らにとってメッカは大切なんですよね。

 インドネシアには2億人のイスラム教徒がいるそうです。その歴代大統領は何か重要な決断をしなきゃいけない時は側近を1、2人だけ連れて洞窟に入って朝まで精霊にお祈りするらしい。その洞窟は今でも残っています。






関野
 桃井さん、映画の感想は?



桃井
 ゾワゾワきて。

 次に自分はどうしようかと映画を見ている間に考えるんです。次はどうゆうチャレンジをしようかなって。
前回の映画(僕らのカヌーができるまで・2010年公開)もそうでしたけど、すごく続きが気になるところで終わる。

 あとは自分たちの物語なんですね。自分たちで考える、自分たちで探検する。



関野
 自分の足で歩いて、目で見て、耳で聞いて考えることって大切です。

 フリーの人は人が行かないところに行かなきゃ駄目だしね。でも、そうすることで桃井さんのように最前線の悲劇のイメージよりも日常生活している人に興味が沸いたりもする。



桃井
 今回驚いたのは旅で出会った人のほぼ全員がスマホを持っていることですね。サムスンとか中国製なんですけど、エチオピアの山奥の人がスマホで写真を撮ったりするんですよ。それからぼくにFacebookのアカウントを教えろという。

 今の時代、世界がひとつの価値観に統一されている。すなわちデジタルの価値観ですね。風の音や波の音を聞いて生きることを価値に入れなくなった。そういったものから取り残された人々がイスラム国になったと思うんです。





関野
 イスラム国についてぼくが理解しているのは、移民たちがよい対応をされずに排斥すらされた。例えばスンニ派の人たちとか。そういった虐げられた人たちがイスラム国になったんだと思います。




桃井
 もちろんそうなんですが、急速な世界のグローバリズムから落ちてしまった人たちがイスラム国になったのではないでしょうか。

 昔はいろんな価値観があったけれど、今はそうじゃない。台湾のコンビニとか行っても、日本と並び方が同じだったりする。僕がスマホの使い方がわからなくて困っていると、エチオピアの山奥の人たちが直してくれたり。








関野
 一律じゃなく多様性が大切だよね。いろんな文化があったほうがいい。
 この航海はその実験場なんです。インドネシア人と日本人がひとつの船の上で朝から夜までずっと生活するという。

 今の時代、シェアが多い方が勝つ。分かち合うシェアではなくて、占有する意味のシェアね。
 効率化、一律化するとスーパーなんかはひとつになって、選べなくなる。アメリカのスーパーの種類も減っているでしょ。ウォルマートなんか最大になっちゃって。選択できない。

 そういう社会にグローバリゼーションがしている。怖いところだよね。



関野
 グローバリゼーションは環境さえも破壊しています。
 それを止めることのできるのは神様や、信仰の力なのでしょうか。

 …この映画の船でも物には上限があって、僕らの状況はあの船に似ていますよね。  






〔記事:菊地七瀬〕





対談者プロフィール

桃井和馬
写真家、ノンフィクション作家。
これまで世界140ヵ国を取材し、「紛争」「地球環境」などを基軸にして、独自の切り口で「文明論」を展開。講演・講座の他、テレビ・ラジオ出演多数。第32回太陽賞受賞。公益社団法人「日本写真家協会」会員。桜美林大学 特任教授。
主要著書に「もう、死なせない!」(フレーベル館)、「すべての生命(いのち)にであえてよかった」(日本キリスト教団出版局)、「妻と最期の十日間」集英社、「希望の大地」(岩波書店)、他多 数。共著は「3・11メルトダウン」(凱風社)、「東日本大震災ー写真家17人の視点」(朝日新聞出版)、「生きる」(日本写真家協会編 新潮社)、デジタル書籍「大地巡礼」など。
また市民発電事業「一般財団法人 多摩市循環型エネルギー協議会」では代表理事を務める他、「多摩グリーンライブセンター『がん哲学外来』カフェ」の運営にも関わる