☆☆☆☆☆☆ 関野吉晴 × 水本博之(監督)× 本橋成一(写真家・映画監督) ☆☆☆☆☆☆
関野
みなさん、こんばんは。こちらは監督の水本君。そして今日のゲストは写真家で映画監督のの本橋成一さんです。
5月1日からは本橋さんの新作映画『アラヤシキの住人たち』が公開されます。
『アラヤシキの住人たち』と『縄文号とパクール号の航海』に登場する人の関係は似ていますね。
本橋
昔、私がまだ外国に行ったことがなかったとき、「世界はひとつ、人類は兄弟」と言っているCMがあって、「うまい事言うなあ」と思いました。
だけどだんだん、どうも違うな、と思ってきて。
みんな宗教も違うし食も違う。なので私は「世界はたくさん、人類はみな他人」と言っています。この『縄文号とパクール号の航海』を見て、「やっぱそうじゃん」って。
相手を認めることが一番大事ですね。
関野
あの船上は家族みたいなもの。アラヤシキも似ている。互いの違いを認めようとしないと。もしクルーを辞めさせて新しい人を入れても、その繰り返しになりますよね。
今世界全体が排除の方向に向いている。イスラム国なんかはもともとヨーロッパ移民の排除からですよね。アメリカで黒人大統領が生まれて、世の中が変わるかなと思ったけど、逆行しています。
本橋
アラヤシキを創設した宮嶋眞一郎さんという方が「あなたという人は地球始まって以来、絶対いなかったはずです。あなたという人は地球が滅びるまで出てこないはずなんです。」と言っていました。
関野さんのような枠に嵌らないおじさんを、そんな目で見ると楽しくなるかもしれませんね。
本橋
10年前「老人と海」という与那国島のお爺ちゃんの映画の関連で、写真集をつくりました。その糸数のお爺ちゃんはカジキマグロの漁師だったのですが、なかなかカジキが釣れなくて。
最初船に乗った時は楽しかったのですが、朝6時に出て、毎日同じコースを流してっていう時間が1週間経つと何していいか判らなくなってくる。1日12時間くらい船の上にいるんです。
宿のおばさんにお願いして、おにぎりをいろんな種類作ってもらって持って行ったりもしたんですが、それもだんだん飽きて。
ところがね、私はいろいろな種類のおにぎりを食べているけど、お爺ちゃんは大きなサツマイモだけなんですよねえ。
でもね、だんだんと時間の使い方がわかってきました。
関野さんたちも船の上で悠々としていましたね。
関野
まあ、それぞれ違いましたけどね。
インドネシア人たちは早く日本に着きたくて、2年目なんかはイライラしてました。
自分たちの伝統船であるパクールを日本に持っていくのが使命だと考えていましたから。彼らの方が日本に着きたいという気持ちは強かったです。日本に着くのは土産話になるし。
私はというと、舟というより大木を日本に運んでいく気持ちだった。
本橋
悠々と見えたのはそれだからですかね?
焦りが見えなかった。
関野
一番焦ってなかったのは監督ですよ。2年の航海より3年の航海の方が情報は増えるから。
2年なら全く違う物語になっていたでしょう。
結果的には3.11も大きく影響しましたし…
水本
ぼくは舟自体は日本に到着しなくてもテーマが伝わればいいのかな、とも思っていましたね。
本橋
映画はエンドマークがつかないと成立しない、というような前提ってあるけど。
そこが商業的なものと違うところですよね。
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〔記事:菊地七瀬〕
対談者プロフィール
本橋成一
写真家・映画監督。
1968年、初の写真集『炭鉱〈ヤマ〉』で第5回太陽賞受賞。以後、サーカス、上野駅、築地魚河岸、大衆藝能、屠場など、市井の人々の生きざまに惹かれ写真に撮り続ける。1991年からチェルノブイリ原発事故で汚染地域となったベラルーシの村に暮らす人々を写真と映像で撮影し、1997年にドキュメンタリー映画『ナージャの村』を初監督。同名写真集で第17回土門拳賞受賞。同地で撮影した2作目の『アレクセイと泉』でベルリン国際映画祭ベルリナー新聞賞、国際シネクラブ賞受賞。