☆☆☆☆☆☆☆☆☆ 関野吉晴 × 長倉洋海(フォトジャーナリスト) ☆☆☆☆☆☆☆☆☆








関野
 みなさんこんにちは、関野吉晴です。  今日のゲストはフォトジャーナリストの長倉洋海さんです。
 長倉さん、映画はどうでしたか?






長倉
 すごくゆったりした映画でした。スピード重視の時代に対するアンチテーゼの意味合いもありつつ、ゆったりとした時間の中から見えてくるものがたくさんあるということを感じました。
 僕も旅がスムーズに進まないとイライラするんですが、遅いからゆえに見えてくることがたくさんありますね。映画もすごく長い時間がかかっていますよね。



関野
 カヌー作りに1年、航海に4年、編集に3年かかりました。本当はカヌー作り1年、航海1年の予定で、4月に出発して、7月20日の海の日にゴールと決めていたんですが。



長倉
 今年3月にシベリアのサハ共和国に行ったんですが、トナカイゾリに乗ったら、すごくゆったりとしていて、景色を見たり、写真を撮ったりしながら移動できたんです。人間は乗り物のスピードが速過ぎると、体がついていかないんですね。関野さんもグレートジャーニーで、ラクダやトナカイなど、色々なものに乗って移動していましたが、歩くスピードに近いほど、人間は見えるものがたくさんあるんだと思います。






長倉
 この映画には、女性があまり出てこないですよね。関野さんは高野孝子さんとシベリアで犬ぞりの旅をしていますが、「冒険と女性」について関野さんの考えを聞いてみたいなと。関野さんの船に女性が乗りたいと言ったらどうするんですか?



関野
 実際にいたんですよ。日本での砂鉄集めや、インドネシアで木を切るのを手伝ってくれた卒業生が、船に乗りたいと言っていたんです。だから、「女性一人だとちょっと辛いよ。あと、トイレも丸見えだから女を捨てなきゃ駄目だよ」と言ったら、本人は「それでもいい」と。ただ、ご両親が反対していましたし、インドネシア人クルーの気が散ってしまう恐れがあったんですね。



長倉
 男の性(さが)として、女性がいたら、モテたいとか格好良く見せたいと思ってしまいますもんね(笑)。それは人間がどんな世界に生きていても、削ぎ落とせない部分ですね。
 関野さんの旅は、何を削ぎ落とすか、あるいは、削ぎ落とした結果、何が残るのかを見つける旅だと思うんですが。






関野
 この航海のヒントは、アマゾンに遡るんです。アマゾンの人は全てを削ぎ落とした生活をしているわけです。家の中を見回して、素材の分からないものはない。鉱物資源を使わない暮らしをしていて、ナイフだけ持っていれば何でも出来る。僕はそれにすごく憧れたわけです。だから、今回もアマゾンの人達と同じコンセプトでやろうと決めました。自然から素材をとってきて自分たちで船を作ると。



長倉
 映画の中で印象的だったのが、カヌーと貨物船の対比でした。スピードも大きさも、全く対極にあるものが同じ画面にある面白さというか。シベリアを訪れて感じたのは、私たちは普段、便利で速い電車に乗って同じ光景ばかり見ているけど、そこから外れてどこかに入ったり、路地に入ったりしないと新しい景色は見られないということです。個性が大事だなんて言うけれど、現代のような生活で個性を見つけるのは難しい。様々な乗り物と時間があって、初めて本当の個性がそこから生まれるのかなと思いました。



関野
 僕は東京生まれ東京育ちでシティ・ボーイなんですよ(笑)。だから、大きいものがいいとか、速いものがいいとか、物をたくさん持っている方がいいとか、そういうものに対する反発があって、どれだけ削いで生きていけるかを考えているんです。だから、今回もなるべく削いで旅をすると、何に気がつくのかなという思いでやっていました。

 …時間のようです。最後に言い残したことはありませんか?



長倉
 5月17日から6月28日まで、吉祥寺美術館で写真展を開催します。
 最終日には関野さんと対談もします。時間もたっぷりとってありますので、皆さん是非来ていただけると嬉しいです。



************************
************************






〔記事:木村奈緒〕





対談者プロフィール

長倉洋海
写真家。
1952年、北海道釧路市生まれ。
京都での大学生時代は探検部に所属し、手製筏による日本海漂流やアフガン遊牧民接触などの探検行をする。1980年、勤めていた通信社を辞め、フリーの写真家となる。以降、世界の紛争地を精力的に取材する。中でも,アフガニスタン抵抗運動の指導者マスードやエルサルバドルの難民キャンプの少女へスースを長いスパンで撮影し続ける。戦争の表層よりも、そこに生きる人間そのものを捉えようとするカメラアイは写真集「マスード 愛しの大地アフガン」「獅子よ瞑れ」や「サルバドル 救世主の国」「ヘスースとフランシスコ エルサルバドル内戦を生き抜いて」などに結実し、第12回土門拳賞、日本写真協会年度賞、講談社出版文化賞などを受賞した。
2004年、テレビ放映された「課外授業・ようこそ先輩『世界に広がれ、笑顔の力』」がカナダ・バンフのテレビ祭で青少年・ファミリー部門の最優秀賞「ロッキー賞」を受賞。2006年には、フランス・ペルピニャンの国際フォトジャーナリズム祭に招かれ、写真展「マスード敗れざる魂」を開催、大きな反響を呼んだ