☆☆☆☆☆☆ 関野吉晴 × 龍村仁(映画監督) ☆☆☆☆☆☆








関野
 今日のゲストは、映画監督の龍村仁さんです。

 龍村さんの作品と私達の映画とはテーマが似ているところがあります。それは、私達の映画に登場したインドネシア人は「木には精霊がいる」と信じている部分です。彼らはイスラム教徒、一神教なのにです。
 木を切る時に、木の精霊に向かって「別の木に行ってください」という。そのような祈りが込められた木を使って船を作ったんです。

 龍村さんの映画でもバイオリンの木が登場しますね。いろんな部分で似ているところがあると思います。






龍村
 そうですね。

 ストラティバリウスの木に対する姿勢にも同じようなところがあります。
 バイオリンは物ではなく生きた有機体なんですね。バイオリンは誰かに弾かれるとどんどん物質的には朽ちていきますが、弾いた人の記憶を宿していきます。
 西洋近代的の科学的な感覚としてはもっと素晴らしいものが作れるはずなのにそれができない。弾いた人の記憶を宿しているから、それを聞きながら修理もするのです。

 ところで、今回の旅に使った船で、船を作るための道具まで1から作っているのがすごい。どういう思いでそうしたのですか?



関野
 今回のコンセプトは、その時代のものを使って自由にやろうというものでした。

 初めは石器を使おうかとも迷いましたが、それで海を渡るのはちょっと怖いなと思いまして。砂鉄を集めることにしたんです。



龍村
 立証されているわけではないですが、縄文の人は確実に岩から鉱物をとる技術を持っていたと思います。私たちが思っているよりずっと高度な技術文明を持っていたんですよね。

 気仙沼で映画を撮っていた時、高台に家を建てようとしたら遺跡がたくさん発見されたという話を聞きました。つまり津波が来ないところに遺跡があった。
 縄文人は高台なら津波が来ないのを分かっていた。そう考えると今より高度な文明があったともいえます。






関野
 今、東日本大震災の津波で流された物がアラスカなどに辿り着いている。昔は海で移動する場合、日本から出発するのはいいけれど、戻ってくるのは難しいんですよね。もし日本から出て行って、新大陸から戻ってこれたならば、その時代にジャガイモやトウガラシが伝わってきていたはずだから。

 十日町の縄文土器ですが、その出来をみたら、みなさんきっと腰を抜かします。  でも縄文人は、渡来人がやってきて南と北に追いやられる。いろんな人がやってきて混血でできたのが私たち日本人なのです。それに今でも人類の大移動はまだ続いています。



龍村
 私の作品『地球交響曲 第8番』は『縄文号とパクール号の航海」と非常に共通しているところがあると思います。機会があれば私の映画を見て頂ければなと思います。

 科学的な分析だけではストラティバリウスのバイオリンの修理のように木の精霊の声を聞くことはできない。そういうことが地球の未来にも関わっていくような気がします。

 ありがとうございました。






〔記事:池田美欧〕





対談者プロフィール

龍村仁
映画監督
1940年、兵庫県宝塚市生まれ。
63年、京都大学文学部美学科卒業後、NHK入局。74年、ATG映画『キャロル』を制作・監督したのを契機にNHKを退社。インディペンデント・ディレクターとしてドキュメンタリー、ドラマ、コマーシャルなど、数多くの作品を手がける。 76年、『シルクロード幻視行』でギャラクシー賞、87年、『セゾングループ3分CM』でACC優秀賞受賞。また同年にはサイエンス・ファンタジー『宇宙船とカヌー』で、92年にはNTTDATAスペシャル『宇宙からの贈りもの・ボイジャー航海者たち』でギャラクシー賞受賞。
89年から制作を開始したライフ・ワーク『地球交響曲第一番』を92年に、『地球交響曲第二番』を95年に公開、翌年、京都府文化功労賞を受賞する。97年に『地球交響曲第三番』を公開。2000年、(有)龍村仁事務所を設立。2001年に『地球交響曲第四番』、2004年に『地球交響曲第五番』、2007年には『地球交響曲第六番』を公開。同シリーズは全国規模の活発な自主上映会によって、のべ230万人にのぼる観客を動員、その数は今なお留まる ことなく、かつてないロングランヒット作となっている